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坪井あや(ファンダメンタルズ プログラム)

ファンダメンタルズ フェスmini開催報告

更新日:2023年3月1日

2022年3月19日 (土) から25日 (金) の7日間、JR上野駅13番線ホーム (東京都台東区) において「ファンダメンタルズ フェスminiーアーティストと科学者 交流の過程の展示」を開催した。以下ではその実施内容、実施目的、実施結果を概観し、まとめる。


目次


 1.数値




出展作家/科学者


アーティスト

うしお, 木村亜津, 黒沼真由美, 澤崎賢一, 古谷咲, 前川紘士, 山根一晃, Nerhol


科学者

石河睦生(医用工学, 桐蔭横浜大学 医用工学部), 石津智大(神経美学, 関西大学 文学部), 一ノ瀬俊明(都市環境学, 国立環境研究所 社会システム領域), 冨田秀一郎(発生生物学, 農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門), 中島啓(幾何学的表現論, カブリ数物連携宇宙研究機構), 波多野恭弘(非平衡物理学, 大阪大学 大学院理学研究科), 水元惟暁(行動生態学, 沖縄科学技術大学院大学 進化ゲノミクスユニット), 湊丈俊(表面界面科学, 分子科学研究所 機器センター), Hannes Raebiger(物性物理学, 横浜国立大学 大学院工学研究院)



実施内容


展示:

アーティスト8名、科学者9名が構成する15組のペアが、ペアとして展示物を設置。今回ように制作した来るべき作品のプロトタイプ、過去の作品、これまでの交流をまとめた資料等を、実際に電車が運行している駅のプラットホームに1週間設置した。


タイトル :ファンダメンタルズ フェスmini

会 期 :2022年3月19日 (土) - 3月25日 (金)

開室時間 :12:00-18:00(3/19(土), 22(火)は12:00開始、3/20(日), 24(木)は15:00終了) ※会期中無休

会 場 :JR上野駅13番線ホーム(東京都台東区上野7丁目)

料 金 :無料*

主 催 : 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

共 催 : 科学技術広報研究会 (JACST) 隣接領域と連携した広報業務部会

助 成 : 日本学術振興会 (JSPS)

協 力 : 大阪大学大学院理学研究科、理化学研究所 数理創造プログラム、JR東日本

*改札外から利用の場合は、JR東日本上野駅を区間に含んだ乗車券類または入場券(140円)、もしくはIC入場サービス「タッチでエキナカ」(140円)での入場



ハンドアウト:

アーティスト8名、科学者9名が、これまでの交流を”問い”の形にフレーズ化、それを説明するステートメントを執筆。17名15組の”問い”とステートメント、各人の経歴、ファンダメンタルズ プログラムの説明を収めたハンドアウトを作成した。会場及びウェブで配布。


プレイベント:

会期に先立ち、アーティスト、科学者、学生・社会人の3つの異なる対象別に3つのオンライン座談会を実施した。各回に専門家を複数招き、ファンダメンタルズを場として広く議論を開くもの。申込不要。無料。

  • 美術篇「美術という”謎”」 日時:2月15日(火) 19:00-20:30 登壇者:沢山遼(美術批評)、中尾拓哉(芸術学)、星野太(美学) 進行:坪井あや (JACST隣接領域と連携した広報業務部会/カブリ数物連携宇宙研究機構 広報)

  • 社会篇「学知は”役に立つ”:価値の再考」 日時:2月25日(金) 19:00-20:30 登壇者:加藤哲彦(株式会社トイビト)、西村勇哉(NPO法人ミラツク / 株式会社エッセンス)、深井龍之介(株式会社COTEN) 進行:坪井あや (JACST隣接領域と連携した広報業務部会/カブリ数物連携宇宙研究機構 広報)

  • 科学篇「探究と架橋:基礎科学の可能性」 日時:3月10日(木) 8:00-9:30 登壇者:佐々田槙子(東京大学 大学院数理科学研究科)、初田哲男(理化学研究所 数理創造プログラム)、山極壽一(総合地球環境学研究所) 進行:坪井あや (JACST隣接領域と連携した広報業務部会/カブリ数物連携宇宙研究機構 広報)


会期中イベント:

1. 出展中の科学者・アーティストの対話を実施、ライブ配信した。

3月19日(土)-25日(金)各19:00から。申込不要。無料。

Aトーク:

展示を媒介に、交流してきた科学者とアーティストそして哲学の方を迎えて対話を深めた

  • 3月21日(月・祝) 石津智大(神経美学)× Nerhol(アーティスト)× 桑原俊介(美学), 進行:阿久津弥恵 (JACST隣接領域と連携した広報業務部会/理化学研究所 脳神経科学研究センター アウトリーチ)

  • 3月22日(火) 黒沼真由美(アーティスト)× Hannes Raebiger(物性物理学)× 山口尚(哲学). 進行:坪井あや (JACST隣接領域と連携した広報業務部会/カブリ数物連携宇宙研究機構 広報)

  • 3月25日(金) 古谷咲(アーティスト)× 石河睦生(医用工学)× 梅田孝太(近現代ドイツ哲学), 進行:坂口愛沙(JACST隣接領域と連携した広報業務部会/大阪大学大学院理学研究科 URA)

Bトーク:

交流してきた科学者とアーティストが、展示・"問い"を媒介として対話を振り返った

  • 3月19日(土) うしお(アーティスト)× 波多野恭弘(非平衡物理学)× 水元惟暁(行動生態学), 進行:坂口愛沙(JACST隣接領域と連携した広報業務部会/大阪大学大学院理学研究科 URA)

  • 3月23日(水) 澤崎賢一(アーティスト)× 一ノ瀬俊明(都市環境学)× 岡田小枝子(JACST隣接領域と連携した広報業務部会/人間文化研究機構総合地球環境学研究所 広報室 准教授), 進行:坪井あや (JACST隣接領域と連携した広報業務部会/カブリ数物連携宇宙研究機構 広報)

サイエンスカフェ:

参加科学者がそのサイエンスをわかりやすく話した

  • 3月20日(日) 冨田秀一郎(発生生物学), 聞き手:木村亜津(アーティスト), 前川紘士(アーティスト), 進行:坪井あや (JACST隣接領域と連携した広報業務部会/カブリ数物連携宇宙研究機構 広報)

  • 3月24日(木) 湊丈俊(表面界面科学), 進行:長谷川麻子 (日本学術振興会WPIセンター )

2. こども向けのオンラインプログラムを実施した。

展示物を題材にアーティストと研究者の思考を追う鑑賞会と、数学者とアーティスト、それぞれの視点から捉えたフラクタルを題材に、実際に手を動かしながら考えるワークショップをそれぞれオンラインで実施した。

  • ファンダメンタルズ フェスmini こども鑑賞会 日時:2022年3月19日(土) 10:00-12:00 実施方法:オンライン会議ツールZoomを使用 対象: 小学4-6年生 定員: 各回15名程度 参加費: 無料 企画:JACST隣接部会、LITTLE ARTISTS LEAGUE

  • こどもワークショップ:科学者とアーティストから学ぶ問う力(フラクタル篇) 登壇者:角大輝(ランダム複素力学系・フラクタル, 京都大学 大学院人間・環境学研究科 /総合人間学部 教授)、野村康生(アーティスト) 日時: 2022年3月21日(月・祝) 15:00-16:00 実施方法:オンライン会議ツールZoomを使用 対象: 小学4-6年生 定員: 各回15名程度 参加費: 無料 企画:JACST隣接部会、LITTLE ARTISTS LEAGUE



実施目的

ファンダメンタルズ フェスmini開催には2つ(厳密にいうと3つ)目的があった。


1)参加する科学者とアーティストに展示の機会を提供することで、両者にとって具体的な目標を設置、目標に向けて交流が促進されることを期待した。


2)ファンダメンタルズの営みをわたし達社会へインパクトを伴って開くことで、まだ見ぬ真理/普遍を追うことの重要性について合意形成していく。そのためには、成果としてまとまった最後の段階で開くだけでなく、その途中を共有していくことが必要。


3)次年度に参加を考えている科学者・アーティストに活動の内容を理解してもらい、関心を持ってもらう


目的1、2、3を同時に満たすことを目指した。さらに目的2については、合意を形成すべき対象として、科学/美術への無関心層を想定した。そのためには、ファンダメンタルズの企画どうこう以前に、そもそも科学/美術との契機をどう見出してもらうか、その糸口を適切に設計することが重要だと考えた。

目的2が成立するためには、前提事項として、次の3つを備えていることが肝要だと考えた。

  1. 展示物はプロセスの一時点であることの明示

  2. 成果展覧会というかっちりしたものではなく中間報告

  3. 何か普通ではないことが起きている/起きそうな予感の提示



実施結果


1. 数値

  • 参加数

    • 展示来場者数:200(アンケート回答数:23)

    • プレイベント視聴回数:1335(美術篇776、社会篇226、科学篇333)*

    • 会期中プログラム

      • 視聴回数:1201(Aトーク:589(桑原篇326、山口篇148、梅田篇115)、Bトーク:270(うしお篇131、澤崎篇139)、サイエンスカフェ:342(冨田篇146、湊篇196))*

      • こども鑑賞会 参加者2名、こどもワークショップ 参加者10名

  • メディア掲載:3

*2022/5/31時点


 


2. 来場者アンケート(n=23)


会場を訪れた来場者にアンケート用紙を配布、記入してもらってその場で回収した。回収数は23。


属性

来場者の年齢層としては、20代以下が全体の4割を占めた(20代31%、10代以下9%)。次いで50代が26%、40代が17%となった。

来場者の主な職業は、会社員が最も多く全体の約4割を占める(44%)、次いで大学生・大学院生が全体の約3割(26%)。他の職業は幅広く、われた。

来場者の主な情報入手経路は、ポスター・チラシ(29%)、ファンダメンタルズWeb/SNS/NL(25%)、知り合いのすすめ(25%)と、主にファンダメンタルズ経由できていることがわかる。

また、主催であるKavli IPMUを知っているか尋ねたところ、半数以上が知らなかったと回答していることからも、科学関心層ではない層も多く訪れていることがわかる。


普遍への関心変化

アンケートに回答した来場者のうち、約7割(74%)が普遍に通じる何かを追う営みに興味を持った(「とても興味を持った」39%、「興味を持った」35%)と回答している。約2割(18%)が「どちらとも言えない」と回答。興味を持てなかったと回答したのは、1割未満(「興味を持てなかった」4%「あまり興味を持てなかった」4%)だった。


アート/科学への印象変化

アンケートに回答した来場者のうち、約7割(16名)がアートについての印象が変わったと回答、約5割(12名)が科学についての印象が変わったと回答、約3割(26名)がいずれについても特に変わらなかったと回答している。


自由意見

自由意見では、着眼点、観点、テーマが面白い。ホームという会場が良い。そして、展示方法について、もっと理解を促す工夫ができるのではないかという3点の意見が多くみられた。


 

3. 出展作家・科学者からのフィードバック(n=10)

17名のファンダメンタルズ(出展作家・科学者)のうち、10名から回答があった。


参加方法

  • 回答者10名のうち、新たに展示物を制作したと回答したのは5割、6割が過去の制作物を展示、各1割が交流の資料をまとめた、制作協力をしたと回答。

  • 設営・撤去を行ったと回答したのは6割。4割が紙を介した交流プログラム「ペイパー」に参加し、9割が会期中イベントのトークに登壇したと回答。

  • 9割が展示を会場で鑑賞し、8割が会期中イベントを視聴、半数がプレイベントを視聴したと回答した。

満足度


企画に参加しての全体的な満足度は、約7割が満足(「やや満足」「満足」67%)、1割が普通(11%)、2割がやや不満(22%)だった。






評価: 交流の促進の観点から


目的設定、達成度、形式の適切さ

交流の促進という目的設定については、全員が適切だと思う(「そう思う」「ややそう思う」)と回答。達成度については、9割が達成したと思う(「そう思う」「ややそう思う」)、1割が普通、と回答。交流の促進のために適切な形式だったかについては、全員が適切な形だと思う(「そう思う」「ややそう思う」)と回答。


良い点

良い点としては、「科学者としては目標を設定してもらわないと、活動を行うきっかけが作りにくい(他の仕事に時間をとられる)ので、目標を設定してもらった方が活動しやすい。」

「着地点(時期)の設定があったおかげで、何か形にできないか取り組む強制力が生じた点」

「展示に向けて、研究者の皆さんと対話ができた」


「展示作品を作ることが目的ではないと思うが、展示作品を作るという共同活動を通じて、交流する事が、このプロジェクトの目的につながると思うので、いいと思う。」

「交流が深まる結果になったので満足している。」

「ペイパー作成や資料の展示、関連イベント、それぞれを実行すること自体が交流になっており、今後のやり取りの貴重な素材・情報でもある。」

「「交流」の為の「出力の機会」として、展示の機会を1つのステップとして活用出来た」


「途中経過を形に出来、また色々と考えるきっかけになった。」


「展覧会で他のペアの展示を、交流するペアの方と一緒に見ることが出来たことも、共通言語や参照項が増えるといった点で良かった」

「「展示」という美術側がより馴染みのある出力形式に対して、設営の現場や鑑賞の機会通じて科学者のペアの方と共有出来た事は非常に良かった。」

「展示という形式で、やってきたことを目の前に並べ、眺めてみることが出来て良かった」


「自分たち自身も含め、企画全体の現状の把握を出来た。」


「最初に問いの設定があり、私自身、このことについて深く考えたことがなかったので、改めて話し合ったこと、自分の考えにおいて言葉になっていなかったことを交流において伝えたことが、(先日別に行った)展示作品に影響した。」

「締切があることで交流が密にならざるを得ない部分があり、ペーパーなどのお膳立てが絶妙にそれをサポートした。」


改善点

難しかった点、改善できると思う点としては、「「出力」には、相応の時間と段取り、舵きりが必要になる」

「最終局面で「問い」を問われた点が難しかった」

「(共同で準備を進めている)展示や企画の中で、自分が把握、理解、あるいは実感出来ていない部分が生じた場合、そこに対してある種のストレスを自分が感じることが分かり興味深かった。」

「展示時期については再考してみる価値がある」

等があった。


評価: 交流を社会に開き合意形成するという観点から



目的設定、達成度、形式の適切さ

交流を社会に開き合理形成するという目的設定については、9割が適切だと思う(「そう思う」「ややそう思う」)、1割が「普通」、と回答。達成度については、4割が達成していたと思う(「そう思う」「ややそう思う」)、4割が「普通」、2割が「あまりそう思わない」と回答。交流を社会に開き合意形成するために適切な形式だったかについては、6割が適切な形だと思う(「そう思う」「ややそう思う」)、2割が「普通」、2割が「あまりそう思わない」と回答。


良い点

良い点としては、「過程の展示というのはとてもいいアイディア。」

「ハンドアウト(問い)という形で、参加者全員が交流や自身の関心をベースに言語化し、かたちとして一旦出せたのは、企画を社会へ開くという視点でも、交流の促進という点でも、良かった。」

「会場で直接来場者に内容を紹介出来、第三者からのフィードバックを得れた」

「関連イベントに様々な出力形式があったので、様々な切り口で多様な交流を紹介できていた。」

「動画アーカイブがあることで、事後的な周知、波及にも繋がるのではないか。」「YouTube公開は反響あり。」

「広く一般の方々にみてもらうために、駅のプラットフォームでの展示を試みたことは面白かった。」「駅で行ったことはよかった」「面白い場所、場所の力がとても素晴らしかった」


改善点

難しかった点、改善できると思う点としては、


1. 説明

「交流の過程を公開する、というコンセプトがそもそも2ー3段構えになっていて、ファンダメンタルズとは何か、から入ってくる一般の人には伝わりにくいし理解しにくい、という構造的な課題を抱えていた。」

「一般の参加者が過程の展示を見て、それが過程だと思ってもらえるか、説明が必要なので、その説明が分かるような形を工夫した方がいい。」

「分かりやすく展示をしようと想定してはいなかったが、観衆について不親切ではなかったか、と思う。」

「何を伝えようとしている展示なのかが不明瞭だったので、どのような人が何をやっているのか、一般向けに交流の過程を紹介するのであれば、最低限のサイン計画と説明は必要。」


「「展示」という出形式を選んだ上での、「交流の途中(各展示物)」と「観客」のつなぎの部分をもう少し強く出来るように感じた。展示の内容自体が企画全体、交流全体の中でどこにあるか、といった現場に来た鑑賞者への説明・中継ぎの部分が結果的に手薄だった。」


「社会とのインターフェイスの組み方が科学と芸術ではやや異なる、という事が顕わになった。芸術では受け手側の主体性をある程度は想定しているように感じた。」


2. 形式

「この企画の主旨がどこであるかを改めて確認した上で、各回の出力(フェスやフェスmini)や対外的なコミュニケーションの形式の選択を行い、その上で丁寧な説明・フォローをする、という順番が大事。」

「フラジャイルな物を置いたり紙をこちらで壁に貼ったりしやすい場所でやるのもいい」

「今回のような経過報告は、当事者、もしくは、事情を理解している関係者が、直接案内するような機会を設けることが、効果的なのではないか」

「「展覧会」という形式は美術にとっては重要で有効な手段だが、交流やその意義を社会化する際に、必ずしもその形式である必要はない」

「「"作品"展示」「展覧会という形式」が要請するもの、あらかじめ期待させてしまうものの強さを改めて感じた」

「直接、交流を具体的に話す形式を核に組んだ出力」

「コロナ禍の環境におけるギャラリーツアーやガイドのかたちなども一考出来る」

「プレイベントで登壇されている方々や各大学・研究所の方々、芸術・科学関係者とファンダメンタルズの参加者たちとの交流の場があっても良かった」

「3~7日の合宿とオープンスタジオ的なイベント」


3. 場所と時間

「特殊な場所でもあるので時間帯が変更することなどもあり、なかなか告知が難しい」

「時期がなかなか決まらなかったことでスケジュールが取りづらかった。ドキュメントや資料を見せる時間がなかったのが残念。」

「「展覧会」の前提として、会場の不安定さがかなり厳しい。直前まで決定できない(会期中にまで変更がある)、毎日搬入出しなければならないという条件は運営上の負担が大きすぎる。その労力の一部は、会期中のコミュニケーションや呼びかけ、工程表の作成と共有、余裕のある運営に使えのでは。」

「タイトな搬入の時間と対外的な取材とが重なるのは難しい」

「内覧会やオープニング的な対外的なコミュニケーションを図る機会と、会場設営準備の時間を分けて設計することで、効果的なコミュニュケーション、発信も可能では」「駅でやるなら思い切って改札の目の前でやるのもあり」


4. 費用

「展示場所の特殊性から展示ケース等どの程度の堅牢性や不動性を持たせたら良いか分からず、普段の展示で必要ない丈夫なケースを作ることになってしまい、費用の負担がきつかった。」

「展示や作品制作への負担がアーティストには大きいので、搬入のための旅費くらいは用意した方が良い」

「展覧会にせよ別の形式にせよ、最低限、「出力」に関わる予算の確保は企画側で行って頂けることが望ましい」

「アーティストが申請できそうな研究助成の情報や応募のノウハウについて共有する機会があっても良い」


 


4. 実施に至るプロセス


(1)展示へ

9月某日、ファンダメンタルズが一堂に会して進捗を報告する「パーク秋」を開催。意向を尋ねたところ、展示機会を志向する人たちが過半数みられたこと、Kavli IPMUから資金を獲得できたことから、展示機会を提供する方向で企画することにした。


当初フェスminiは、口頭発表のみとする案だった。この時点で展示の意志表明があったのは全体の半数7、8組、内容も未定だった。そのため展示形式での開催を考えた時、懸念点は、科学・美術の無関心層にインパクトを伴って訴えるには、展示の内容、ボリュームが不十分であることが予想されることだった。展示物だけでは不十分な足を運ぶ理由を充足することを検討し、解決案として、ギャラリー等の美術展示として利用される施設だけでなく、一般の人が通常アクセスする場所である普段展示スペースとして使われていないローカルなスペースや、公共空間を探した。


(2)電車1両へ


11月某日、JR東日本の協力意向を得る。JR東日本は2月に1ヶ月間のアートと音楽のフェスティバルの開催が決まっていた。会期中の1週間程度、上野駅に電車車両を停車させ、その車両を会場としたグループ展を実施予定で、そのグループ展に1団体として出品するという枠組みの提示があった。

フェスティバルによる集客見込み、車両という場所性は、展示物のボリューム・内容が少なく足を運ぶ理由にならないという懸念点を解決して目的を達成しうるように思えた。

一方、JRの企画下に入ることで建て付けが重層的になり、ただでさえわかりにくいファンダメンタルズ プログラムがさらに伝わりにくくなることが想定されること、車両は展示空間として不適切と考える作家もいるだろうこと、という新たな懸念点が生じた。


(3)電車1両及び13番線ホームで


12月某日、「パーク冬」開催。参加のファンダメンタルズに場所の意向を聞いたところ、電車車両に多くの手が上がったこと、さらに車両1両だけでなくユニークな場所性を持つ13番線ホームの使用も可能となったことから、電車1両及びホームをフェスmini開催スペースとすることに決定した。


実施目的に記載した3つの前提事項ープロセスの1時点であること、成果の報告ではないこと、何か普通でないことが起きていることの予感を感じさせるものであること、の実体化として、電車車両及びホームに展示物を設置する。ただ、これにより無関心層に科学・美術との契機を提供するにしても、来場者の日常とファンダメンタルズの営みの間にはギャップが想定される。結びつける補助線として、来場者が、ファンダメンタルズの交流の一端を、自分に適した考える素材として捉える契機として捉えてもらうことを考えた。具体的にはファンダメンタルズはこれまでの交流をそれぞれ「問い」の形にフレーズ化し、併せてステートメントを書く。それらをまとめたハンドアウトを作成し、会場で配布することとした。


3つの前提事項の実体化は具体的にどのように実装すればよいか検討し、ホワイトボードを象徴的に使うこと、及びハンドアウトを新聞を模した形で作成、フェリックス・ゴンザレス・トレスの作品のように、ホーム及び車両全体に量を積み、来場者が自由に持ち帰る形を考えた(左図)。その際、車両という大きさと多くの文字を読ませることが難しいことを想定し、展示物とは別途必要となるだろうファンダメンタルズ プログラムについての説明についても、全てハンドアウトに盛り込むこととした。


プラットホームが使えることになったこと、思った以上に車両内が狭いことから、展示物はホームに、車両内は問いを紹介するスペースにと、内容を分けることを考えた。問いの紹介においては、来場者にテーマである"問い"に主体的に取り組むことを促すため、15組の"問い"とステートメント、参加アーティスト・科学者のポートレートをフィーチャーすることを考えた(右図)。


(4)13番線ホーム及びコンコースへ


1月某日、JR主催2月開催の電車車両の企画が白紙、ファンダメンタルズ単体で、駅コンコース及び13番線ホームを会場とした展示を実施する形、日程についても2月の別日で調整に入った。

プレイベントの企画書作成、登壇者に依頼。


駅コンコースは通行人が多い。管理や鑑賞の観点から、参加するファンダメンタルズの展示ではなく、ファンダメンタルズ プログラムの概要を伝えることを目的とし、ファンダメンタルズ プログラムを説明するテキストや映像資料を展示することを考えた(左上図)。しかし、目的を、先の3つの前提事項を体現するための設とすること、13番線ホームに人を導くための導線とすることに置くこととした。具体的には、2m四方程度のホワイトキューブを作成。その中に駅ホームでの展示の様子(下図)のリアル配信をプロジェクションし、覗き穴から見れるようにする。また別途これを挟む形で配した、上面だけ抜いた2つの小さなホワイトキューブにモニタをファンダメンタルズプログラムの記録映像を流すと共に、ハンドアウトを配架する設を考えた(右上図)。


(5)13番線ホームへ


2月某日、駅コンコースが白紙となり、13番線ホームにて、日程についても3月開催で調整となった。

コンコースがなくなったことにより、前提事項を明示するための設がなくなった。一方、当初考えていたよりも展示物のボリュームがあり、会場も広く使えることがわかってきた(図5)ことと、駅ホーム自体に非日常的な強い場所性があることから、科学・美術への無関心層にインパクトを伴って訴えるという目的は達成されうると判断した。また、来場者の日常とファンダメンタルな営みとのギャップについてはハンドアウト作成により解決がされるものと考えた。

プレイベントの告知、開催、アーカイブ配信を実施。


(6)13番線ホームで

2月末日、会期(3月19日から25日まで)、会場(上野駅13番線ホーム)、展示内容(15組全員展示)が確定。3月に入りリリースの配信、Webの掲載、チラシ・ハンドアウトの作成、会期中プログラム登壇者に依頼、準備。


3月18日、15組の展示を駅ホームに設置。会期中はハンドアウトを配布。会期中プログラムを実施。




まとめ


メディアの反応として、様々に手を打ったが掲載されたのは新聞の地方欄2件ということで、科学の観点でもアートの観点でもなく社会の観点で関心を集めたと言える。


試みに、来場者アンケート結果の最も率の高い回答をつなぎ合わせると、10-20代の若年層が、展示鑑賞を通じて"普遍"に通じるものへの関心を喚起され、アートについての印象が変化する、という結果になる。展示テーマと場所について高く評価する人が多い一方、展示方法については工夫の余地があると評価する人が多かった。


同様に、参加作家・研究者からのフィードバックの最も率の高い回答をつなぎ合わせると、過去の制作物と新たに作成した制作物を展示したりしなかったりし、それら制作物を自ら設営・撤去したりしなかったりし、会場を訪れて展示を見て、会期中プログラム(科学者とアーティストの対話をオンライン配信)に登壇、そして視聴し、プレイベントは視聴したりしなかったりして、全体的な感想としては満足している、という結果になる。

同様に、交流促進の観点からの評価としては、交流促進という目的設定は適切で、達成度は高く、実施形式としても適切であるという結果になる。

良い点としては色々な意味で交流促進になったことを評価する人が多く、改善点としては特に重なった意見というものは見られなかった。


同様に、交流を一般に開き合意形成をする観点からの評価としては、交流を一般に開き合意形成をするという目的設定はやや適切で、達成度は普通、実施形式としてもやや適切であるという結果になる。

良い点として駅という場所性を高く評価する人が複数いる一方、改善点として展示の提供の仕方に工夫の余地がある、展覧会という形式そのものを見直す余地がある、展示会場と開室時間に工夫の余地がある、費用負担のあり方に工夫の余地がある、と評価する人が複数いた。


運営サイドからの評価としては、

  • このような機会提供をした場合、アーティストと科学者の組、どれくらいの希望があるのか、どれくらいの内容物になるのか、基準がわかった

  • 最も優先度が高いものの1つは、出展作家・科学者の展示内容の自由度の確保。参加意向、展示内容の確定はギリギリまでまつ。そこを確保するためには、自由度の高い会場を早期に確保すること、変更を用意に反映できる形で展示を構成する必要がある。つまり通常の展覧会の形式とは異なる形式が必要。

  • 不確定要素が多いため、各種媒体への告知内容は大枠・無難で用意することになるが、今回のように実際蓋を開けてみたら乖離している可能性もある。一方、対象に刺さるためには先鋭的なものが必要でもあり、2年目は実像に合わせてゆくことができるのでは。

  • 一般の合意形成にあたり、今回は小学生高学年とビジネス層の無関心層を対象としたが、ハードルが高すぎたか。最も多く来場したのは会社員だが学生も多く、来場者に何がしかの傾向はあった。今回の来場者属性を参照することで2年目はもう少し対象を現実的に設定できるのでは。

  • 当初から“展覧会”と呼びつつも実際には展覧会とは別物であるものを目指したつもりだが紆余曲折をへて結果的に”展覧会”だった。アーティスト・科学者へ発表の機会提供、合意形成という目的を考えた時に、”展覧会”という形式を無前提に考えてしまったが、交流を促進させることと、ファンダメンタルな営みの重要性を一般に合意形成をすること、双方の目的を果たしうるユニークな形式をボトムアップで結果的に開発できるのでは。

  • ファンダメンタルズ プログラムは対象種が多いプログラム。説明を対象別に用意することで、多くの人からの理解に繋がることが考えられるが、その場合リソースも必要になる。説明を増やす代わりに、来場者のコミットを強く求めることを説得的かつ明示的に示す設も検討の余地がある。

  • ライブ配信後アーカイブ配信の視聴が現在に至るまで継続的に増えている。ライブ配信は人的リソースのコストが高いが、質問も少なくあまりライブの利点がない。録画の配信で代替可能だと考えられる。

  • 企画のボリュームのわりに動ける人間が少ない。企画の数を減らさないのであれば、時期を分けるなどで人的リソースの分散を図る。

  • ボトムアップで運用すると抜けが出る。結果的に普通の展覧会となったため、ハンドアウトでは展覧会に求められる解説レベルに事足り無いことが会期明けてからわかった。アドバイザリーなど全体を見る視点の導入も効果的と思われる

  • 駅ということで、通行人等、科学・美術無関心層の集客を期待したが、導線を確保できなかったことから、来場者200名と期待していたほどは集客に繋がらなかった。異なるセクターと連携する場合には、関係筋全体に無理が出無いような配慮が必要。


以上、フェスmini開催の結果、ファンダメンタルズ間の交流という観点からは一定の効果が見られた。一般に合意形成をするという観点からは、一概に成功を収めたとは言え無いが、多くの実験的な試みを試したことにより、実に多くのことが分かったという点で意義深い。得たことを積み上げ、次に生かすとともに、引き続き実験的に試みてゆきたい。




謝辞


ともかく形になり無事最終日を迎えられたことは、関係各位の尽力によるもので、JACST隣接部会、デザインチーム、ファンダメンタルズ、JR東日本、Kavli IPMU、大阪大学大学院理学研究科、JACST、関連イベントの登壇者、に深く感謝申し上げます。




関連リンク


  • プレイベント:

  • 会期中イベント:


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