撮影:森政俊(メイン会場)、西村伊央(交流会場)
目次
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「ファンダメンタルズ プログラム」は、2023年12月下旬に、交流の過程にある科学者とアーティストの ペアの営みを開示する「ファンダメンタルズ フェス(2021-2023)」を開催しました。フェスとして は三度目の開催になります。
運営を担う任意団体「ファンダメンタルズ プログラム」は、科学技術広報研究会(JACST )ーー全国 約130箇所の科学・技術の研究機関や大学などに所属する約250名の広報担当者が集まるインデペンデ ントな互助組織ーー内の「隣接領域と連携した広報業務部会」の部会員と、ファンダメンタルズ プログ ラム参加の有志アーティスト等で構成されます。メンバーは皆本務の傍らボランティアで携わっています。
以下ではその実施背景、実施概要と結果、今後の課題などを報告します。
開催概要
タイトル:ファンダメンタルズ フェス (2021-2023)
会 期: 2023年12月16日 (土) 〜 27日 (水) 10:00-17:00 ※会期中無休
会 場: 東京大学駒場キャンパス(東京都目黒区駒場3-8-1 )
【メイン会場】東京大学駒場博物館
【交流会場】東京大学駒場小空間
入場:無料
主催 : ファンダメンタルズ プログラム
共催:東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部 駒場博物館、科学技術広報研究会 (JACST) 隣接領域と連携した広報業務部会、東京大学 カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】、公益財団法人 小笠原敏晶記念財団
協力:東京造形大学
協賛:特定非営利活動法人ミラツク
出展科学者・アーティスト
2021年から毎年3月頃にファンダメンタルズ プログラムへの参加科学者とアーティストを公募しています。応募者は、ペア形成のためのプログラム「ファンダメンタルズ バザール」への参加を経て、科学者とアーティスト1対1のペアを形成。相互にイニシアティブを取り、双方向で自主的な交流を継続します。
本展には2021年、2022年、2023年から交流を継続する参加者が出展しています。
科学者:
石垣美歩(天文学/国立天文台 助教)、石河睦生(医用工学/桐蔭横浜大学 医用工学部 講師)、石津智大(神経美学/関西大学 教授)、一ノ瀬俊明(都市環境学/国立環境研究所 上級主幹研究員)、桑垣樹(幾何学・代数解析学/京都大学 准教授)、佐伯和人(惑星地質学/立命館大学 教授)、大黒達也(神経科学・計算論的音楽学/東京大学 特任講師)、寺田健太郎(宇宙地球化学/大阪大学 教授)、冨田秀一郎(発生生物学/農業・食品産業技術総合研究機構 グループ長)、中島啓(幾何学的表現論/東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構 教授)、難波亮(理論的宇宙論/理化学研究所 iTHEMS 上級研究員)、巴山竜来(数学・グラフィックスプログラミング/専修大学 准教授)、福永真弓(環境社会学/東京大学 准教授)、幕内充(認知神経科学/国立障碍者リハビリテーションセンター研究所 室長)、湊丈俊(表面界面科学/分子科学研究所 主任研究員)、山脇竹生(化粧品原料の開発/資生堂 研究員)、Hannes Raebiger(物性物理学/横浜国立大学 准教授)
アーティスト:
安里槙(現代美術、インスタレーション)、新井碧(絵画)、飯島暉子(インスタレーション)、出口雄樹(絵画)、うしお(現代美術)、大槻唯我(写真)、加藤巧(絵画技法、テンペラ)、椛田ちひろ(絵画、インスタレーション)、北野謙(写真)、金孝妍(絵画、インスタレーション)、木村亜津(立体、ドローイング、植物)、黒沼真由美(インスタレーション(レース編み))、澤崎賢一(映像、プロジェクトベースド・アート)、諏訪葵(インスタレーション)、平山好哉(インスタレーション)、ヒロイクミ(ミクストメディア、インスタレーション)、前川紘士(ドローイング、プロジェクトなど)、三好由起(インタラクティブ・インスタレーション)、森政俊(写真)、山崎阿弥(パフォーマンス、インスタレーション)、山根一晃(インスタレーション)、山本雄基(絵画)、吉田ゆう(立体、写真、複写技法)、吉見紫彩(抽象画)、Life is a Poem(アップサイクルアート)、Nerhol(彫刻、写真)、Saki Furuya(穴)
実施背景と方針
実施背景を記すにあたり、まず参照すべきは本プログラムの実施目的です。
ファンダメンタルズ プログラム目的:
最先端科学を中心とした分野の研究者と現代の美術を中心とした作家のことを、共に何か普遍に通ずるものを追うものとして”ファンダメンタルズ”と名付けます。
ファンダメンタルズが交流ができる環境を整備し(1)、目先の意味を超えて何か普遍に通ずるものを追うということ自体に大きな意味があることを広く社会に広報し、合意形成していきます(2)。
この2点により、科学・美術・社会を新たに結びつけ直し、各領域を活性化させること、それが新たな文化を形成することを目指すのがファンダメンタルズ プログラムです。
次に、初年度のフェス「ファンダメンタルズ フェスmini 2021」の実施を踏まえ、構想した昨年開催したフェス「ファンダメンタルズ フェスmini 2022」のコンセプトです。今回も基本的にはこのコンセプトを継承しています。
フェスmini2022からの継続コンセプト:
一種の展覧会とも捉えられますが、展覧会を目指すものではなく、美術、科学、その融合、そして完成品としての展示物、プロセスを体験できるような資料や模型、さらにそこで対話している人たちなど、美術、科学に関わる複数の範囲における、複数の様相が複数の媒体として集まる"フェス"ー祝祭を試みるものです。
その上でまとめると、
これまでの経緯、今回のポイントと課題:
交流プロセスの一般公開1年目は形式としては展覧会を、駅のホームで実施しています。立ち寄りやすく、かつ魅力的な空間を模索し、駅のホームという公共空間にいきつきました。
交流プロセスの一般公開2年目は展示物とともに科学者・アーティストが会場にいて、来場者は対話をしながら鑑賞するという形式で、小劇場空間で実施しています。このプログラムは指定期限内に意義深い成果物をアウトプットすることを目的とはしていません。発表準備ではなく、必要なだけ交流に労力を割くことが推奨されます。そうなると発表単体では鑑賞者には理解が難しくなります。1年目の反省から、短い準備期間にも対応しうる自由度が高い空間で、ものだけではなく人がいるという形式での開催にいきつきました。
交流プロセスの一般公開3年目となる今回は、2年目同様に小劇場空間での発表に加え、交流期間がある 程度長くなってきたペアのために、展覧会形式でも実施することにしました。発表よりも交流に注力する小劇場での発表形式とは異なり、交流と同様に発表準備にも注力する形式となります。 会場は、美術博物館と科学博物館を統合した歴史を持つ稀有な空間である駒場博物館としました。
本プログラムは、公募で集まった参加科学者とアーティストが自ら主体となって交流することを支援するものであるため、結果としてこの博物館での展覧会形式の発表は、多様な作品群がばらばらに発生することになります。通常の企画展覧会は、キュレーターがテーマを立て、適切な作品を蒐集し、見せ方を考えて構成した展示が主眼となるのに対し、この一般公開の主眼は、展示を媒介として、科学者とアーティスト、そして両者の交流時にはそこにいない人が、フラットに基底で出会う機会の提供にあります。
したがって今回の課題は、交流の 当事者ではない第3者が強いイニシアティブをとって1つの見せ方にまとめるという形はとらず、あくまで交流の当事者が表に立ち、多様な作品群がある状態をそのまま提示するが、かといってまとまりがないことによって鑑賞体験が損なわれることは避けることになります。また、1年目 の駅のホームで開催した「フェスmini2021」では、サインと説明が鑑賞者に対して不十分だった点が指摘さ れていました。かといって、提供する情報が多すぎても威圧的になることが予想されたため、適切な鑑賞サポートを設計することもまた課題となりました。
交流会場は、昨年のフィードバックを鑑み、口頭発表用の舞台”島”を1つにして1コマあたりの発表時間を短縮、全員で全員 の発表を聞く形にしました(非公開の口頭発表)。
広報の方針*:
また、これまでのプロセス展示と異なり、今回は"作品"という標準的な広報対象があることから、 より多くの人にアクセスできる機会と捉えました。昨年の対象を限定した広報という方針とは異なり、チラシの作成と配布、プレスリリースとメディア向け内覧会を行い、広く広報をしていくこととしました。 チラシは、展示内容の情報を含め、当日会場で何がみられるのかがわかるようにしました。
実施内容
メイン会場は、全体を3つのセクションに分けました。メタバース制作時に組み立てた順路を概ね踏襲しています。会場構成は、出展者との意見交換会も行い、最大限出展者の意向を汲んだ上で調整しました。キャプション(説明文)を、文字数とある程度の内容を指定し、出展者に共同で書いてもらうことにしました。プロフィールはハンドアウトに掲載することにしました。
イベント開始までの予習コンテンツとして、過去の交流発表の記録動画、および「ファンダメンタルズ フェスmini2022」をメタバース化して2023年5月に公開した「ファンダメンタルズ フェスmini2022+1(メタバース)」を再公開しました。
デュシャンがご専門の、美術評論家/芸術学研究の中尾拓哉さんから、駒場博物館の常設展示であるマルセル・デュシャン《大ガラス》が今年100周年を迎えると聞きました。ご縁を活かすべく特別企画を提案いただき、本展出展作品と《大ガラス》の接点を探るテキストを会場で読む「ガラス製の遅延」を実施しました。 NFT販売によるプログラムのサポートという様式も継承し、実施しました。
チラシを作成し、全国の研究機関、美術館、ギャラリー等200箇所に配布。プレスリリースを作成し、科学記者、アート系Webメディアへ配信しました。
本展の開催1ヶ月後、記録映像をオンラインで期間限定公開、多くの人に交流を公開しました。
[プレイベント]
アーカイブ動画公開:過去に実施・公開した科学者とアーティストの交流記録を期間限定公開
メタバース再公開:2022年12月開催「ファンダメンタルズ フェスini 2022」をメタバース上に再構築し、2023年5月に公開したものを、期間限定で再公開
[メイン会場(東京大学駒場博物館)] 16組の研究者・アーティストのペアと3個人による作品展示。ハンドアウトの配布。
[交流会場(東京大学駒場小空間)] 8組の研究者・アーティストのペアと1個人による資料・模型・作品の展示、来場者との交流。ハンドアウトの配布。口頭発表(非公開)。
[関連企画]
中島啓と前川紘士によるワークショップ「局面上のドローイング」
美術評論家/芸術学研究者・中尾拓哉企画による、駒場博物館の常設展示であるマルセル・デュシャン《大ガラス》と出展作品との接点を探るテキスト
「ファンダメンタルズ フェス(2021-2023)」に参加したことを証明するNFTの販売
[オンライン一般公開] 上記3の口頭発表の記録動画を、2024年2月の1ヶ月間YouTubeチャネルで公開
メイン会場は、全体を3つのセクションに分けました。メタバース制作時に組み立てた順路を概ね踏襲 しています。会場構成は、出展者との意見交換会も行い、最大限出展者の意向を汲んだ上で調整しまし た。キャプション(説明文)は、文字数とある程度の内容を指定し、出展ペアに共同で書いてもらうこと にしました。プロフィールはハンドアウトに掲載することにしました。
イベント開始までの予習コンテンツとして、過去の交流発表の記録動画、および「ファンダメンタルズ フェスmini2022」をメタバース化して2023年5月に公開した「ファンダメンタルズ フェス mini2022+1(メタバース)」を再公開しました。
特別企画は、デュシャン研究がご専門の、中尾拓哉さんから、駒場博物館の常設展示であるマルセル・デュシャン《大ガラス》が今年100周年を迎えると聞いたことが発端です。2020年に実施した「ファンダメンタルズ トーク」では中尾さんに「科学と芸術の間」と題してデュシャンをご紹介いただいたこともあり、ぜひ本展出展作品と《大ガラス》の接点を探る何かができないか検討を重ねました。
2023年「ファンダメンタルズ フェスmini2021+1(メタバース)」開催時に開始した、NFT販売によるファンダメンタルズ プログラムのサポートという様式も継承し、実施しました。
チラシを作成し、全国の研究機関、美術館、ギャラリー等約200箇所に配布。プレスリリースを作成し、 科学記者、アート系Webメディアへ配信しました。 会期開始の前日には、出展者6名とともに、主にメディア向けの内覧会を実施しました。
本展の開催1ヶ月後、記録映像をオンラインで期間限定公開、交流を一般公開しました。
タイムライン
1/18 メイン会場決定
[1/25 ファンダメンタルズ ルーム開催]
2/4 メイン会場下見会告知
2/21 メイン会場下見会開催
[2/22 ファンダメンタルズ ルーム開催]
3/2 展示プラン〆切告知
[3/25 ファンダメンタルズ パーク開催]
4/4 展示日程確定
[4/19 ファンダメンタルズ プログラムの昨年度報告&今年度説明会 開催]
[4/26 ファンダメンタルズ ルーム開催]
5/31 メイン会場展示プラン〆切
[5/31 ファンダメンタルズ ルーム開催]
[6/24 ファンダメンタルズ パーク開催]
[7/ ファンダメンタルズ ルーム開催]
8/15 メイン会場最終プラン〆切
[8/30 ファンダメンタルズ ルーム開催]
[9/30 ファンダメンタルズ パーク開催]
10/1 SNS(FB, Twitter)にて開催第一報=投稿開始
10/7 メイン会場レイアウト等意見交換会 開催
10/15 チラシ掲載情報締切。交流会場出展申込〆切。
10/20 設営下見
10/24 特別企画参加者募集
10/31 展示掲示情報〆切。交流会場最終展示プラン、口頭発表〆切。内覧会参加意向、アーカイブ配信
意向〆切。
[10/31 ファンダメンタルズ ルーム開催]
11/1 特別企画参加者mtg開催。以降個別にヒアリングを実施。
11/8 メイン会場フロアプラン確定。
11/14 交流プログラム確定、フロアプラン確定。一般来場登録受付開始。
11/15 設営説明会
11/16 チラシ配布開始。プレスリリース。
11/17 フェスミニ2022動画、メタバース再公開開始。
11/20 ワークシート打合せ
11/24 チラシ投稿によりInstagramでも告知開始
[11/29 ファンダメンタルズ ルーム開催]
12/1 メイン会場荷受け
12/4 メイン会場設営開始
12/4-5、9 メイン会場業者設営
12/8 メイン会場玄関装飾入稿
12/9 メイン会場サイン入稿
12/10 メイン会場メインパネル入稿
12/11 メイン会場キャプション、エントランスパネル、説明パネル設置。メイン会場コーナーパネル、 説明パネル入稿。
12/12 メイン会場ハンドアウト入稿
12/13 メイン会場説明パネル入稿
12/14 NFTバッジ完成
12/15 メイン会場玄関装飾設置。内覧会。NFT販売開始。
12/16 メイン会場初日。メイン会場補助説明パネル作成と設置。
12/18 特別企画カード入稿。交流会場デザイン完成。
12/23 交流会場サイン、エントランスパネル完成。
12/24 交流会場ハンドアウト完成。制作物の印刷。交流会場設計図確定。
12/25 交流会場設営
12/26 交流会場初日
12/27 両会場撤収。NFT販売終了。
12/31 フェスミニ2022動画、メタバース再公開終了。
1/10 展示作品の輸送完了
[1/31 ファンダメンタルズ ルーム開催]
2/1 交流会場での非公開口頭発表の記録動画を一般公開
[2/28 ファンダメンタルズ ルーム開催]
2/29 一般公開終了
[3/30 ファンダメンタルズ パーク開催]
出展準備を通じて、参加科学者とアーティストが自主的に交流を深められるよう、余裕を持って全体スケジュールの設定をするとともに、説明会を適宜開催して企画趣旨や全体像を共有、会場レイアウトについては出展者と共に協議を行なうなど共創していきました。
また、両者が安心して交流を行えるよう、運営も参加するオンライン交流プラットフォームDiscordを利用した交流プラットフォームを整備・運用するとともに、定期的なオンラインサロンを開催することでペアの交流だけではなく参加者間 の繋がりを作るなど、コミュニティ形成に務めました。
実施結果
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出展者数:44名(科学者17名、アーティスト27名)
展示来場者数:メイン会場820名(アンケート回答数:68)、交流会場68名(アンケート回答数:20)
SNS*
YouTube:1,010 (+100)
Facebook:194 (+8)
Twitter:252 (+20)
Instagram:250 (+59)
SNSの関連投稿数
FB:50
Twitter:70
Instagram:12
Webページ** 約3900 pv
NFT販売数:3件
*2024/2/29時点のフォロワー数。()内は2023/10/1告知開始時との比較
**現在サイトに表示されている閲覧数はCMS不具合により途中でカウントが0になってからの数値。ここでは当初の数値を合計した。
2.来場者アンケート(n=68)
回答者の67%が満足しており、不満を持っているのはわずか1%であることがわかります。認知経路は、知り合いからの情報が38%、「その他」(通りがかりなど)のカテゴリーが30%と続きます。来場動機は、「なんとなく面白そう」と答えた人が最も多く、その次に「科学コミュニケーション」と「異分野融合、学際研究」への関心がその半数程度でした。年齢層は20代から60代以上まで均等に分布しており、10代以下は少なめです。職業別では、会社員が約30%で最も多く、次いで自営業と大学生・院生が16-17%、教員と公務員が8-9%となっています。
展示への参加を通じて普遍的な追究に関心を持った人は62%にのぼります。科学の印象が変わったと答えた人は23%、アートの印象が変わったと答えた人は19%で、両方に変化を感じた人は9%でした。実際に触れたり香りを感じたりする体験型の作品があることが、満足度につながっている傾向があります。
3.出展科学者・アーティストからのフィードバック(n=18)
回答者の100%が満足したと回答しており、出展者の満足度は総じて高いことがわかります。運営面 に対する評価も肯定的であることが読み取れます。交流促進の観点で満足感があるものの、それを社会 に広げて理解を獲得する観点からは改善の余地が示唆されています。
博物館の企画・構成・形式と各展示に対しては満足度が高いですが、特別企画「ガラス製の遅延」に関しては企画に参加したかどうかで意見が分かれていると思われます。内覧会の形式に対しては「やや満足」と回答している割合が多く、改善の必要性が示唆されています。
小空間の企画・構成・形式、には肯定的な評価が多いものの、来場者との対話と、各展示に関しては「普通」と回答している割合が多く、さらなる改善が示唆されています。これは博物館で展示をして小空間では展示をしていない人による回答と思われます。
出展者からは、アーティスト/科学者との交流の深化、プログラムとそれを共有する場の適切なデザイン、継続的な交流促進への肯定的な意見が寄せられている一方で、潜在ユーザへのリーチや情報伝達の明瞭さ、アクセス向上が課題として挙げられています。
4.メディア掲載
12/16 毎日新聞「東大博物館に新たな世界 科学と芸術の「融合」で生まれた作品」 https://mainichi.jp/articles/20231216/k00/00m/040/045000c
Tokyo Art Beat https://www.tokyoartbeat.com/events/-/Fundamentalz-Festival-2021-2023/843586B6/2023-12-16
所感と課題
多様な作品群がある状態をそのまま提示するが、かといってまとまりがないことによって鑑賞体験が損なわれないこと、適切なサインと説明を掲示することで鑑賞をサポートすること、について基準値はクリアできたように思う。
海のものとも山のものともわからないプログラムの3年間の実験の報告の機会としては、今回のように既存の枠組みに載った展覧会という形を目指すのは妥当であったと思う。実際、来場者もこれまでよりも多く、受容された。しかし、科学にもアートにもあまり関心がない層にその意義を届けるという課題は依然のこった。今回、形式を美術展にしたが、その要素を残しつつも科学の要素が同じくらいに出てくる、その結果何かもっと逸脱していて、異形な空間となり、結果的に見たことのない、でもフレンドリーな何か、がこのプログラムの目的を達成するために必要な本来の目指す姿ではないかと思う。今後挑戦していきたい。
美術鑑賞をする人には慣れた様式である博物館での美術展という様式であるおかげで、広報のわかりにくさ(通常の美術展の広報との差異)も指摘された。プログラムの趣旨を伝えることよりも、美術展の規範に則り情報を取捨することを優先させるという広報戦略も検討したい。
人文科学を自分ごととして考えてもらうことを目指す団体「ジブンジンブン」にも協力いただき、来場者向けに鑑賞サポートの一環としてワークシートを作成したが、回収率は高くない。ハンドアウトも見ない人が多いように見えた。来場者とのコミュニケーションについては改良の余地がある。
昨年に比べ、博物館があることで、対比的に交流会場(小空間)でのプロトタイプの発表の意義が伝わりやすかったように思う。
NFTという形式によるプログラムのサポート方法は浸透していない。来場者とのコミュニケーションの一環として検討していきたい。
最後に、ファンダメンタルズ プログラムでは、参加いただける科学者、アーティスト、そして一緒に運営を担っていただける方を募集しています。
科学者、アーティストの皆さまにはぜひ今後の公募へのご応募を検討いただけると嬉しいです。
プログラム運営の担い手として、まだ見えぬ地平を目指して、柔軟かつ意欲的に新しいことに挑戦してみたい皆さまは、ぜひご一報ください。道のりの過程で見える景色には、きっと何か触発されるものを見出せることと思います。
謝辞
展示の見やすさは、博物館の潤沢な備品/設備/機材の提供、長期の設営期間に負うところは大きく、学 芸員折茂克哉さんのこれほどの協力がなければ実現は不可能だった。メタバースの記録映像を会場内に 映写するアイデアもご教示いただいた。職員の皆さんには荷受け、会期中の電源ON/OFFでもお世話に なった。学生さんには会場の監視をしていただいた。
44名という参加者からの情報をまとめるにあたり、運営坂口愛沙さんの実務の設計とその運用、取りま とめがなければ表記ミス、諸々の遅延が多発していただろう。好評だったキャプションの、文字量や内容 をある程度指定するという案は坂口さんによる。坂口さんとともに運営藤原稔久さんには、早い段階で のタスクの洗い出しを指摘いただいた。運営長谷川麻子さんには極限に走りがちな提案を現実に適合し ていただいている。
44名という参加者にまつわる膨大な量の制作物を作るにあたり、デザインの遠藤和紀さんの、経験に裏 打ちされた迅速かつ適切な対応と助言、意向に寄り添いながら共にトライ&エラーで正解に辿り着くこ とを厭わない合理的かつ協力的な姿勢と実働がなければ実現は不可能だった。設営期間から会期開始数 日間はほぼ毎日会場に来ていただいた。構成を大きく3つに分けるのが定型であることを提案いただい たのも遠藤さんからである。交流会場の空間レイアウトは、微妙に形の異なる大量の平台を組み合わせ る必要があるパズルなのだが、実験的で交流しやすい空間を実現いただいた。
特別企画は、デュシャンの研究をされている中尾拓哉さんのものでありつつも、今回の展示そして今回 の会場にちょうど良く寄り添ってもらうものになった。中尾さんには最後まで尽力いただいた。また、 バラバラの作品群に寄り添うという展示構成のあり方について、ご自分の事例を幾つも紹介いただい た。
参加アーティストの安里槙さんには、発表場所としての駒場博物館を提案いただいた。東大IRCN広報の 岡田一世さんには折茂さんをご紹介いただいた。同じく参加アーティスト前川紘士さんには展覧会のス ケジュール感や輸送について助言いただいた。北野謙さんには造形大からの機材提供を調整いただい た。
素晴らしいmol^3さんのビジュアル、西村伊央さんと森政俊さんの記録写真(森さんにはその背の高さ を生かして玄関装飾も設営していただいた)、NVS金子悟さんの記録映像。
広報担当の運営長谷川さん、会計担当の運営藤原さん、サイン・キャプション類の設営を遠藤さんと共 にになっていただいた運営山口貴子さん。山口さんには設営・搬入の手順についてもご教示いただい た。山口さん、そして参加アーティストの三好由起さんにはその他配線やライト調整などメイン会場の 設営も一部ご助力いただいた。山口さんには、交流会場の設営も補助いただいた。制作物の企画・校正 は運営全員で行ったが、校正では特に運営宇都宮真木さん、運営入口可奈子さんに丁寧にみていただい た。入口さんには内覧会の受付も担当いただいた。
交流会場では受付を運営長谷川さんに、司会を運営長谷川さんと運営坂口さんに担っていただいた。運 営長谷川さんにはDM送付にあたり、科学分野の配送先リストもご準備いただいた。参加アーティストの 北野さん、山本雄基さん、新井碧さんにも広報にご協力いただいた。
展覧会の準備の進め方についてはOMOの大森久美さん、久米英之さんにもお話を伺った。牧寿次郎さん の玄関装飾のタイトル文字、施工をお願いした奥多摩美術研究所の皆さん、代表の佐塚真啓さんにはメ イン会場レイアウトの動線配慮についてもご指摘いただいた。搬出では東大UTCP梶谷真司さん、桑山 裕喜子さん、東大社会連携部門鈴木奈緒子さんにお世話になった。
Kavli IPMUの春山富義 事務部門長、吉泉浩二 事務長、契約 阿部宣さん、継続的に援助をいただいてい
るアーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】、小笠原敏晶記念財団、NPO法人ミラツクの皆様、 ワークシートについてコメントいただいたジブンジンブン代表原田央さんはじめみなさん、素敵な記事 を書いていただいた毎日新聞渡辺諒さん、東大広報誌の高井次郎さん、そしてプログラムに参加いただ いている科学者とアーティストの皆様、ご来場いただいた皆様にお礼申し上げます。
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