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山崎阿弥(アーティスト)

2023年度ファンダメンタルズ ルームMayを開催しました

新年度におけるルーム開催の2回目。15名の参加者が5つのルームに分かれてそれぞれのテーマに沿って話す。miroに用意された関心事マップ※1で私が3つ丸を付けた話題のうち「都市環境」がテーマに選ばれ、初めてホストを務めた。実際は「環境」に多くの丸が付いていたが、ホスト該当者が現れなかったので、隣にあったトピック「都市環境」とそれに丸を付けた私がトピック&ホストになった。前回参加した際もそうだったが、自分の好みとしては、抽象度の高い概念や話題が偏りがちな言葉よりも、より具体的で軽めの用語を選び、雑多な話の中に何が見つかるかを楽しみに臨んだ。同じような考えを持たれたかどうかは想像だにしないが、前回は2回のセッションで同じメンバーが続けて3人揃いニヤニヤしてしまった。もちろん「都市環境」も一歩踏み込んで考えると曖昧で広い概念だけれど、その曖昧さを具体的に話せるトピックではないかと思って選んでいた。



セッションは約20分ずつ2回行われる。ホストは2度とも同じ人が務める。5つのルームは4、5人を上限に少人数で語らう。前回、ホストの方が少し話題を絞った後に、参加者一人ずつに2分程度話させて、2周ぐらい発言を回していくという方法を取られていたので、それを踏襲してホストをやってみる。後に反省するが、私は話題を絞りすぎてしまったと思う。


ルーム5では、「都市環境」→「都市の音」に絞って各参加者に話してもらった。本当は自分が関心のあることを、むしろこの場では遠くに置いて、他の方が考えていることに触れたかったのに、ホストとして話しやすさを提供したいあまり、あたふたと話題を絞りすぎてしまい、きっと尋ねられた方は「え…そんなこと急に聞かれても…」だったかもしれない。

それでも各参加者がそれぞれの経験から「都市の音」や「都市らしい音」について話してくださった。パリの救急車やパトカーの音の音程が日本のそれより高くて耳につく話や、都市中心部で聞こえる音楽のミクスチャー、時間帯によって変化するサウンドスケープの表情、再生する場所とはあまり関係のない音楽を流すことでその音楽の文化背景が突然出現する面白さ、といったことを取り交わし、第一セッションは終了した。

参加者の「ふだんあまり考えないことだったので」という感想から「都市の音」に絞ったことは短時間の語らい場の方向性としては好ましく無かったかもしれない(自分の見解を話すには、ある程度の熟考や記憶の振り返りの時間が必要な話題だった)と思いつつ、聴覚が現す都市の姿にはまだまだ可能性があるのだとも感じる。


第二セッションの前に、各ルームで話したことをホストが伝える時間が設けられる。前回もそうだったが、他のルームから出てくる話にとても驚く。短時間でそのような知識量、コメントや分析の深さと高さが出てくるのかと、自分の不甲斐なさにどっと汗が出る。一方で、私が知りたいこと・知ろうとしていることの傾向もぼんやりと見えてくる。短時間だと、特異な経験や最新の知識の開示に光が強く当たりがちだ。でも<短い時間><オンライン>のある種の短所が多くの人の脳裏にもたらす「こんなことを話しても、きっと場合によるし…?」と最初から落とし所が見えていると躊躇するような感覚と、「これは”そうなんですね、すごい”とは言われても、このトピックを運動させるような接続ができるか?」と思うような個別具体のエピソードや知識を共有することへの躊躇、これらの間で”困ったとき”に本人のふいをついて出てくる何か、それに触れたいのだと思った。平たく言えば、ここで出会う人の好奇心の在り処、そのまだ曖昧な領域に触れたいのだと思った。


第二セッションは私を含め3名の方と話す。音に絞ったことを反省して、どうすれば参加する方が楽しく話せるか焦りつつルームで待っていたら、最初に加わった方が「音の話と聞いて来てみた」とおっしゃるので、その方の柔和な笑顔にまんまととろけて、対話の緒はそのまま「音」でいくことにした。

のっけから「音は香とも関わりがあると思う」という光の矢が飛んできて、音と香の共通項や、なぜ関わりがあると感じるのかといった、非常に捕まえにくい感覚を三者三様に言語化するところから始まった。香にも音にも、センシングした瞬間に経験や過去になる・そこにあるのに無い、と感じる人間の感覚や媒質の性質などにも話が至る。香が現したり、運んでくる特定の誰かの存在、存在性。現象であると同時に、そこにないものを表象する機能、それを可能にするコンテキストの共有、文化の継承。

また、各人の生活で鳴っている具体的な音の話や、音の都市性、都市とはそもそも何なのか、対立概念は果たして自然なのか、地方にいると無意識に口にする「マチ(街/町)」※2という言葉の不思議さ、都市や自然を定義するときの前提条件、概念の幅の設定とその中のグラデーションの精細度など、「都市の音」からは大きくそれずに自由に話が進む。誰かが言った言葉に対して、他の誰かが、理解を深めながら自分の経験も加えて展開し、それぞれが数%ずつ互いの当事者になっていく。そして香と音の性質から思い至り「作品制作をしていると、何か気づいていて、それを表現するには本編・本体よりも、存在の尻尾みたいなところに本質があるように思えて」と伝えると「そうそう、その端っこの部分が作品に出せてるかどうか、まだ出せてないんじゃないかなって」とアーティスト同士の「そうそう、うんうん」も話せたりした。


第二セッション後の話題共有でも、他のルームの話に驚きつつ、ようやくリラックスして耳を傾けることができた。と、ここで手を止めて、当日のドキュメントを読み返す。改めて楽しく実りある時間だった。


恒例の5分間の感想記述と記念撮影、坪井さんの「10分押しならまあ良い方じゃないですかね」にうんうんと頷き、ルーム終了。皆さんと直に会える日がより待ち遠しくなった。


記:山崎阿弥(アーティスト、ルームホスト)


 

※1:と、個人的に呼んでいる。ファンダメンタルズ参加者の関わるフィールドや関心事から取り出されたキーワードが概ねカテゴリーごとに分けられ俯瞰できる。ブレインストーミングで出た言葉を付箋に書いて壁に貼ったような景色。参加者は自分が話題に取り上げたいキーワードを3つ選んで丸で囲む。囲まれた数の多いものが当日のトピックに選ばれ、選んだ人の中からホストが決まる。


※2:「お母さん、ちょっとマチ行ってくるわ」の「マチ」。準都会とも呼べるような、足を伸ばせばあまり苦なくアクセスできる、各地方都市で一番栄えている繁華街というようなイメージ。東京に住んでいると、おそらくほぼ使わないターム。



 

(運営から)今回の他のルームのテーマは、他者、移民、新素材、アジア となった。


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