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2024年度ファンダメンタルズ ルームJulyを開催しました

コイズミアヤ(美術/工作)

ファンダメンタルズ プログラムが主催する月一回の交流企画、2024年7月13日の会の報告をします。だいぶ時間が経ってしまっていたので、私の感じた内容が多くなってしまうことをおことわりしつつ書いてみます。

科学と美術という異なる背景を持つ人たちが集まって、持ち寄った、または用意されたテーマについてグループに分かれて話してみるという機会ですが、今回は、一般にも公開されているファンダメンタルズトーク「vol.06 生命美学:科学者が科学以外の表現方法を持つこと」(2021)の部分を運営が3つ用意したものを見てから、その内容について会話をしました。この動画は、科学者でありアーティストでもある岩崎秀雄さん(metaPhorest主宰/早稲田大学理工学術院教授)のレクチャーです。

 

1つ目の分節では特徴的なベン図が示されました。「自然(科学)」の中に「人間」がカテゴライズされ、さらにその中に「アート」が入る。一方で、「アート」を古来の意味の「アルス(技術)」で捉えると、「自然科学」は「アート」の中の一分野になる。つまり、自然科学の中にアートが、アートの中に自然科学が、それぞれ包摂し合う繰り込み構造になる。このように包含関係が反転するようなことはたくさんあって、そのことを考えたり意識させたりすることが重要だと思い、「クラインの壺を生きる」をテーマにしているという内容でした。

2つの部屋に分かれて話をしました。私はこの「包含関係が反転する」という図をとても面白いと感じ、ホストだったので同様のことを考えますかと話を振ったのですが、あまり反応が得られなかったのが印象的でした。「クラインの壺」の形のことを詳細に考えるのが面白いという話や、アートとデザインについてベン図を使って授業をされている話などを伺いました。私は立体を作っているので、例えば構造的に包含関係を示す形を作った場合に、それが固定化されず反転可能なように仕掛けることが難しいのを経験しているせいで逆に、思考が展開していくときや、言葉の意味を考えるときに、そのイメージの包含関係の反転はよく起きるということを気にしています。感覚的に自明のことと思っていた内容を、咄嗟に具体的な例を示すことができずにもどかしい思いをしました。短い時間の中で、自身の考えについて明確に示すことの鍛錬として取り組むと良いのだなと少し反省。

 

2つ目以降の分節の内容については部屋を分けずに皆で話をしました。

「生命は対象に宿る」と考える科学に対し、文化の面では死生観などから「生命は感得者と対象との関係性に宿る」と2つに分けられるけれど、それぞれの分野の中で生命をみるときに、もう一方の視点が入り込んで関係が入り組んでいるという話がありました。「対象」について科学的視点だけでは解明できないことがあるとのこの話題を、参加者は興味や共感を持って受けとった様子でした。その後の「(生命)美学」についての説明も引き金になり、自然が作ったものについての美的価値判断についてそれぞれが話をしたりしました。黄金比などの自然構造の強さや、淘汰されて残ってきた花を美しいと感じること、逆に弱さに美を感じることなどについて。また、個体差の平均をとると美しく感じられる「顔」の話や、自然の調和から外れたものに違和感を感じる私たちの能力についても触れられました。

 

つづいて岩崎さんが主催しているmetaPhorestの紹介がありました。先の入り組んだ視点の関係性を知るために、両領域を射程にし、生命やバイオについての研究の場をアーティストと共有しているそうです。方針として、アウトリーチ活動のためのアートやデザインの導入はやらない、自然科学を「セクシー」に見せるための活動に興味がないとの発言、特に「セクシー」の意味について話題になりました。私自身、ペアは組まずに「ゆるユニット」という素粒子物理学者の白井智さんと複数人のアーティストでグループミーティングを続けている中で、宇宙について一般的な理解を得るための視覚的な美しい表現はたくさんあって、特にそのイメージ(図像)がどのような経緯のものなのか素人にはわからないことが気になっていたので、対外的な広報ではなく本質的な協働をという企図はよくわかります。

アウトリーチの仕方やラボの運営には色々なやり方があるということについて、普段はこの交流の会話に直接は参加しないファンダメンタルズの運営も混じって話がありました。私たちのこの活動の今後の方針について、少し前から「ラボ」*を開いてオープンに相談していることにも通じる大切な話題だったなと後になって感じました。

 

・参加者は6名、途中1名退出、後半に運営2名も一緒に話をしました。


記:コイズミアヤ(美術/工作)


 

*2024年6月に開始した、ファンダメンタルズ プログラムの新しいプログラム「ラボ」。月に1回、現在企画中・実施中のプログラム運営そのものについて、参加科学者・アーティストと運営がコミュニケーションをする機会。

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